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東京高等裁判所 昭和27年(ネ)788号 判決

被控訴人は別紙目録記載の土地のうち同目録記載の部分(別紙図面に表示のとおり)を通行してはならない。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴人訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴人訴訟代理人において、(一)被控訴人はその所有していた山梨県東八代郡石和町八田第四百九十番の十五の西側の一部、十六の全部及び同番の十七の東側の一部(分筆して同番の五十七となる以上は何れも被控訴人所有にかかる同番の三十一ないし三十三の北側に隣接している)を、昭和二十六年春頃訴外北原家上に譲渡し、同訴外人はその地上に住宅を建設した上、平等川の管理者である近津普通水利組合長、石和町長に平等川堤防使用許可申請をなした結果、昭和二十七年四月十九日(原審判決言渡後)それが許可せられたので、同訴外人は控訴人が原審で主張したような設備をなし、それによつて右宅地から平等川堤防に出で、以て公道に通じている。このようにすれば被控訴人も当然、右北原と同様、平等川堤防を通つて公道に出られるわけであり、この方法をとれるのであるから被控訴人の所有地は袋地でないと、控訴人は原審で主張していたに拘らず、被控訴人はこの方法をとらず、平等川堤防へ出るためには通らなければならぬ自己所有地を前示の如く訴外人に譲渡し、自己の建物の敷地たる土地が袋地なりと称して、漫然本件通路を通行しているのは明かに権利の濫用である。なお右土地の外被控訴人が、その主張の如く所有地の一部を訴外杉原某に譲渡したことは認める。(二)仮りに被控訴人が本件通路を通行することが権利の濫用でないとしても、被控訴人は、その所有土地が袋地であつて、本件通路を通らなければ公道に出られないと主張しながら、右(一)に述べたようにその所有土地の一部を前示訴外北原に売渡し、同訴外人において前示の如く平等川の堤防を経て公道に出入しているに拘らず、被控訴人においてこのような方法を何等講ずることなく、控訴人の損害を省みないで通行権を主張し、本件通路を通行しているのは、甚だしく信義誠実の原則に背反し許さるべきものではない。(三)仮りに被控訴人において自己の土地のために控訴人の土地に対し囲繞地の通行権を有すとするも、(イ)本件通路は控訴人の所有地にとつて損害最も大なる部分である。(ロ)また本件通路の幅員が七尺というのは、被控訴人の通行にとつて必要を超えており、その限度は必要の最少範囲に限定せらるべきものである。(ハ)控訴人の土地にとつて損害最も少なき場所は、控訴人の所有地の最南端、水路に添つた部分で、これが公道に通ずる最短距離であり、石和町に出るのにも近路となる。(二)右(ハ)の場所には今通路がないので、これを新しく開設することは多少の困難を伴ない、また費用も要するが、被控訴人は自ら費用を負担して新たに通路を開設することができるのである(民法第二百十一条第二項参照)と述べ、被控訴人訴訟代理人において、控訴代理人の右主張に対し、(一)被控訴人がその所有地の一部を、控訴人主張の如く訴外北原家上に売渡したことは認める。その外これら土地の東方の第四百九十番の十五の東側の一部、同番の三十五、同番の三十六、同番の三十七の各全部を昭和二十五年中訴外杉原某に譲渡したが、それは被控訴人の経済的事情上已むを得なかつたので、買受けた訴外北原は便宜平等川堤防上を通行しているが、後石和町長から許可らしきものをとつたようである。しかし同町長には堤防上の通行を許す権限はない。(二)平等川の堤防は公道ではなく、農夫等が便宜通行しているに過ぎず、自動車等は通行できないので、被控訴人が同堤防上に出られるような措置を講じなかつたことは、別段信義誠実の原則に反するものではない。(三)本件通路は、控訴人の所有地にとつて損害最大の部分ではない。且つ本件通路には開墾当初から、通路として使用すべく、人頭大の石を敷きつめてあり、これを控訴人がその主張の如く耕地となすには、多大の費用を要すると述べ、なお原審以来主張した事実関係につき、次の如く補充的に、控訴人被控訴人が相隣接して所有している本件土地四隣一帯は、明治四十二年の大水害により廃河川となつたところで、それを故小松導平が払下を受け、苦心して現在のような耕地となしたものであるが、当時小松は、開墾耕作上の便宜と必要上、本件通路及びその南北に二本計三本の通路を設けたのであり、法律上の智識があれば当初から無番地の通路としておくのであつた。被控訴人の前主風間義甫は本件通路を右小松以来引続き使用し、この通行権は現在の被控訴人の所有土地に当然附属していたからこそ、被控訴人はこの土地を買受けたのであつて、控訴人は、本件通路が存在し被控訴人において毎日トラツク等を乗入れ使用していることを承知の上、本件土地周辺を買受けたのである。それであるから被控訴人の土地利用の経済的見地からすれば、控訴人は進んで本件通路を提供する社会的義務ありというべく、本件通路を閉鎖されることにより被控訴人の受ける損害は、控訴人が本件通路の存在により受ける損害に比し莫大であつて、控訴人の請求こそ権利の濫用である。また被控訴人の所有土地は十一筆で面積数十町歩に上るのであるから、その全体の所有地を一筆の如く考えて、その通行権を云々するのは、錯覚であると陳述した外は、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用すると述べた。

<立証省略>

三、理  由

別紙目録記載の山梨県東八代郡石和町八田第四百九十番の二十二、同番の二十五、同番の二十六及び同番の三十の各土地(以下本件土地と称す)が、控訴人の所有に属すること、その東側に隣接して被控訴人が、同番の三十一、同番の三十二、同番の三十三その他の土地を所有し、その地上に自己の住宅、工場等を有していること、並びに本件土地四筆のほぼ中央を東西に横断して、幅約七尺長さ約三十八間の部分(別紙図面に表示のとおり)に通路(以下本件通路と称す)が存在し、被控訴人がこれを通行のため使用していることは、当事者間に争なく、本訴中本件控訴にかかる部分は、右のように被控訴人が本件通路を使用するのは、控訴人の本件土地の所有権に対する不法の侵害であるから、これが禁止を求めるというにあるところ、被控訴人は第一次に、前記土地を買受けて以来、本件通路の部分に通行地役権が設定せられているものと信じ、平穏且つ公然にそこを通行しているので、時効により通行地役権を取得した、と主張するので按ずるに、本件土地及びその南北に隣接する控訴人所有の土地並びに前記被控訴人の買受けた土地が、もと笛吹川の廃河川敷地であつて、訴外亡小松導平がその払下を受け、整地して分筆し、被控訴人はその土地のうち石和町八田第四百九十番の十五ないし十七及び同番の三十一ないし三十八の十一筆を所有するに至り、また控訴人は同じく同番の十八ないし二十七及び同番の二十九、三十の十二筆を所有するに至つたこと、右被控訴人所有の十一筆の土地の東方は他人の所有地、南方は水路を隔てて他人の所有地、北方は水路を隔てて平等川の堤防であり、西方は本件土地を含む控訴人所有十二筆の土地に接していること(別紙図面参照)、並びに右控訴人土地の西側にほぼ南北に通じ町道(公路、なお原判決に村道とあるのは町道の誤と認める)が存することは、当事者間に争なく、原審証人風間義甫(第一、二回)、同小松祐則の各証言(以下措信しない部分を除く)、原審及び当審における控訴会社代表者(原審は第一、二回)、被控訴人の各供述並びに成立に争なき甲第一、第二号各証を綜合すると、前記小松導平は控訴人、被控訴人の前記各所有地を含む土地を、訴外亡小林八右衛門に譲渡し、同人は更にこれを訴外風間義甫(名義はその子風間義雄として)に譲渡し、被控訴人は昭和十九年頃前記十一筆を右風間から譲受けたこと、控訴人所有の前記十二筆の土地は右風間から訴外亡窪田恵輔に、同人から昭和二十年八月頃更に控訴人に譲渡されたことが、認められる。原審証人風間義甫(第一、二回)、同小松祐則の証言中には、右認定に多少反する部分があるが、これは措信しない。してみると被控訴人は、右の如く土地を買受けて以来本件通路を使用しているとしても、本訴が提起されたことが当裁判所に顕著である昭和二十三年四月十四日までには、まだ取得時効期間の十年が経過していないことが明かであるから、通行地役権を時効により取得した旨の被控訴人の抗弁は採用できない。

被控訴人は第二次に、被控訴人所有の前記土地は袋地であり、控訴人所有の本件土地は囲繞地であつて、本件通路は恰も囲繞地上の通行権が存在する場所に当る旨主張するので審按するに、被控訴人が訴外風間から譲受けた前記十一筆の土地の中、西方から順次に第四百九十番の十七の東側の一部(分筆して同番の五十七となる)、同番の十六の全部及び同番の十五の西側の一部の連続した土地を、昭和二十六年春頃訴外北原家上に譲渡し、その東方第四百九十番の十五の東側の一部、同番の三十五ないし三十七の各全部を、昭和二十五年中訴外杉原某に譲渡したという、当審で新たに主張された当事者に争なき事実と、前審以来当事者間に争のない被控訴人従前所有の十一筆の一団の土地の東方、南方、北方が前記の如き情況で、西方は全部控訴人の所有地に接している事実並びに原審及び当審における検証の結果とを綜合すると、被控訴人が前示のように訴外風間から買受けた土地十一筆は、別紙図面の如く連続した一団をなしていて、その一団の土地の北方に東西に通ずる幅員三尺の水路があり、その水路の北側が平等川の堤防であつて、同堤防は被控訴人の土地の平面から垂直に計つて五、六尺の高さで、側面は約二十度ないし二十五度の傾斜をなし、堤防上は幅員九尺位あつて現に人畜が通行しており、又荷馬車等の輙の跡も存している事実(同所をトラツクや荷馬車は通れないが小さい荷車リヤカー等は通れること、誰でも自由に通行していることは原審証人久保田宣朔の証言によつても認められる)、同所附近の堤防南側には人家が二、三あり、そのあるものは右水路に盛土架橋し堤防上に出る短かい坂道を造つて通路とし、又あるものは堤防上と殆んど同平面まで十五尺位土盛りした上に家屋を建てて、恰も平面的に道路に接している家屋と同様に堤防上に出入している事実、現在被控訴人所有にかかる一団の土地は前記第四百九十番の十七の西側一部(その北側即ち堤防に面する側において六間、南側において五間半、東側及び西側において約二十五間)を通じて平等川堤防に水路を隔てて接している事実が認められる。そもそも同一人が一団をなした数筆の土地を所有している場合、その一団地のどこか一方側でも公道に面していて、一団地のどこからでも同一人の所有地部分のどこかを通過すれば、その公道に出られるというときには、民法第二百十条にいう公路に通ぜざる土地ということはできないわけであるが、本件の被控訴人所有の一団の土地の北側に、右のように通行し得る堤防が存しているのではあるけれども、同堤防上へ出るためには、前記の如く三尺幅の水路があり、且つ両者間五、六尺の高低があるので、結局相当の工作を施さなくてはならぬ地形であるから、右被控訴人所有の一団の土地は全体としてみて民法第二百十条第二項に規定する所謂準袋地と解すべきものである。従つて当事者間に争の存する平等川堤防を公路若くはこれに準ずるものとみるべきかどうかの点、その他これに関連する双方当事者の主張については判断をするまでもなく被控訴人の所有地については、その囲繞地の上に通行権ありといわねばならぬ。

そこで本件通路が果して、右通行権の存する場所に該当するかどうかの点につき判断をすすめる。前記の当事者間に争なき被控訴人及び控訴人各所有地の四周の状況、原審及び当審における検証の結果、並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人所有地の西側を南北に通ずる前記町道が民法第二百十条にいう公路であると認められ、且つ被控訴人所有地と、この公路との間には、控訴人所有地の外に土地は存しないことが認められるから(別紙図面参照)、控訴人所有地が即ち民法第二百十条にいう囲繞地であり、そのどこかの部分に被控訴人が通行権を有することになる。しかしそれは同法第二百十一条第一項により被控訴人のため必要であつて、且つ控訴人所有地のため損害最も少なきものであらねばならぬが、原審及び当審における検証の結果並びに原審における控訴会社代表者本人尋問の結果(第一回)によれば、本件通路は控訴人所有の一団の土地のほぼ中央で、且つ北側及び南側を幅約三尺の水路で地形的に区劃されている本件土地の同じく中央を、東西に貫ぬく位置にあたつており、現在もその東の約半分は、控訴人が本件土地の東方部分に栽培育成している葡萄畑の一部となつていて、なお控訴人はその事業を拡張する計画で本件土地一帯を買受け、右葡萄畑となつていない本件土地の部分には、従業員の寄宿舎、研究所等を建設する予定であること、本件土地の南側には水路あり、また控訴人所有地の南端にも水路あり、それらのあたりに、或る幅員で通路を設けても、建物敷地或は耕耘地としての効用を害する程度は、本件通路のそれに比し遥かに少ないであろうと推測せらるることを認めることができる。一方また右検証の結果、原審証人風間義甫の証言(第一、二回)、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果によると、本件通路は前顕小松が開墾した当時から存した通路の一つで、それ以来引続き使用せられて来たのであり、或時期にはその幅員も現在より広く、トラツクの通つたこともあり、地盤は拳大の石ころが一、二尺敷き込まれていてすでに堅くなつている事実も認められるのであるが、以上の諸事実を実験則に照らし考慮してみても、本件通路を目し控訴人所有地のため損害最も少なき場所と断定することは、どうしてもできない。従つて被控訴人は本件通路の場所には囲繞地通行権を有せずといわねばならぬ。

被控訴人は、控訴人において本件通路の通行禁止を求めるのは権利の濫用であると抗争するが、原審(第一、二回)及び当審における控訴会社代表者本人訊問の結果によると控訴人が本件土地一帯を買受けるに際して売主からはむしろ、被控訴人が本件通路を通つてはいけないのに通つているので、平等川の堤防を通るようになるだろうと聞かされていた事実も認められるし、却つて被控訴人において早急に控訴人に対し、囲繞地のため損害最も少なき場所で自己のため必要の限度内における通路を選ぶことの協議を求め、若しそれが調わなければ、これが確定を裁判所に訴求する等の措置に出るべきで、被控訴人が正当の通行権ある場所を通行し得るようになるまでは、控訴人においても本件通路の使用を認諾するのが、信義則に従う所以であるが、被控訴人主張の如き理由で本訴請求を権利濫用なりというは当らない。

よつて被控訴人に対し本件通路の通行の禁止を求むる控訴人の本訴請求は相当であつて、これを認容せざる原判決は不当であるから民事訴訟法第三百八十六条、第九十五条、第八十九条を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 斎藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)

目録

山梨県八代郡石和町八田第四百九十番の二十二、同番の二十五、同番の二十六及び同番の三十の土地中これを東西に横断する幅七尺長さ三十八間の現況通路の部分(別紙図面に通路と表示の部分)

図<省略>

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